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WHAT ABOUT YOU? #12 / 成重松樹+きくちゆみこ

Interview by YOSHITAKA KURODA(ON READING)

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―今回の展示についてお聞かせください。まずは、「わたしがぜんぶ思い出してあげる/あなたがぜんぶ思い出してくれる」というタイトルがとても印象的です。

K:ここ数年間、なんとなく「忘れない」という言葉への違和感があって。たとえば大きい事件や事象があったとして、「~を忘れない」というのは、とっても大切なようでありつつ、わたしには少しこわいような気がしたんです。もちろん何かを「忘れたくない」という気持ちは誰にでもあるものだけれど、それが個人の手から離れて、全体的なキャッチフレーズみたいになった時には特に。「忘れない」ということは、ある事実をそのままにポケットにいれて、いつでも手のなかで握りしめているようなイメージがあって、それがいつの日か、不信や敵対なんかにつながってしまうのでは、と思ってしまったり。「~しない」という言葉のかたくなさみたいなものが気になっているのかもしれません。

一方「思い出す」という行為は、いったん何かを手放す行為というか、手放して、その上でまたつくり出す、つまり、とても創造的で想像力を使う行為である気がするんですよね。事実そのままであるものは、誰とも分かち合うことができないけれど、いったん失い、再びつくり出したものならば、他人と分ち合うことができるというか。そういうのが神話や物語の可能性だったりするんじゃないかなあと。やさしい行為に思えるんですよね。世界はいつも世界としてここにあって、すべてがきちんと用意されているんだけど、でもわたしたちはすべてを見ることも、記憶することもできない。だからこそ、みんなそれぞれに見て、思い出したものを持ち寄って、分かち合うことで世界はできているというか。毎朝、起きて自分の顔を思い出し、あなたがあなたであること、この世界が世界であることを思い出す。だから世界はみんなの「思い出」で成り立っているし、ある意味では、この世界は「思い出させてくれる」装置で満ちあふれているような気もする。

―展示会場では、ここにある写真や言葉は、直接自分の見たものや体験したものではないのに、何かを思い出したり、連なる写真から物語を想起させたり、まさに「思い出させてくれる」装置になっているなと感じます。

K:たとえばわたしの写っている写真をあなたが見て、あなたがその時の何かを代わりに思い出してくれたり、とか、あなたとわたしの互換性や思い出の交換可能性を感じられる空間になったらいいなあと思っていました。何よりも、そういった「他人」と「わたし」のあいだにある緊張感をいったん解くこと、そういうところから平和みたいなものが感じられるのかなあと。去年の二月ごろから、世界情勢のいろんなことがどんどん気にかかりはじめて、いったい他者と自分とのあいだに、世界と自分とのあいだにどうしたら親密さを感じられるのだろうとぼんやり考えていたんですよね。おそらく、自分ではない誰かにはなれないけれど、誰かの思い出をわたしが思い出してみるというか、他人の靴にそっと足を入れてみる、そんなささやかだけれど想像力を使う行為が、何かを少しずつ変えていくのかもしれないなあと。今回展示の初日に行ったワークショップでも、短い時間のなかで隣人を近しく感じられる瞬間が持てた気がして、とても興味深かったです。何しろ、「~してあげる」という言い回しが好きなんですよね。誰かをがっぷり受け止めるようでもあるし、逆に「~がしてくれる」というのも、誰かに身を任せられるような安心感があったり。そう、展示には包括的な安心感みたいなものを、わたし自身も求めているような気がします。

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―展示方法は、サイズもアウトプットの方法も様々で、ビジュアルイメージや言葉が浮遊するように飛び込んでくるインスタレーションになっていますね。

N:今回の展示構成では、わりとフィジカルに、イメージ(写真)や言葉を平面としてはなく、それが立体的なモノであるということを感じてもらえるような仕掛けにしました。そもそも“記憶”の個々の強さというのはそれぞれで、整頓されていないものですよね。記憶はこのように、均質ではなく非常に曖昧なものだということをできるだけ身体でも感じて欲しかったんです。小さな写真であれば近づいて良く見ようとするし、大きな写真であれば一歩引いてみたりするでしょう。それから、記憶の隣にある別の記憶のせいで、新たな別の記憶を思い出したり、極端に言えば新しい記憶を作ったりすることもあると思うんです。他人の話を聞いて面白かったり、哀しくなったりするのって、実は、順を追ってその感情が動かさされているのではなくて、聞き手のこれまでのあらゆる記憶の大小、隣接関係から糸で繋がり合うようにリンクして、まるで自身の経験かのように刺激され心が震えるのかもしれません。 この展示で隣接関係にある写真や言葉が、そもそもが独立したものでもあるはずなのに、相互につい関係性を見出してしまう、これは写真や言葉、絵画等、展示物の持つ特別な能力だと思うんです。そうやって写真や言葉が機能するように並べました。

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イベント情報

2016年2月17日(水)~2月29日(月)
成重松樹+きくちゆみこ展『わたしがぜんぶ思い出してあげる/あなたがぜんぶ思い出してくれる』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
www.onreading.jp

成重松樹
目黒の不動前にて小さな美容室koko mänty (kissa)を営み、写真の制作を続けている。
http://mtk-ooma.tumblr.com/

きくちゆみこ
翻訳業をしつつ、言葉を使った作品制作・展示を行う。「嘘つきたちのための」文芸誌(unintended.) L I A R S 発行人。
http://www.yumikokikuchi.com/

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