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WHAT ABOUT YOU? #12 / 成重松樹+きくちゆみこ

Interview by YOSHITAKA KURODA(ON READING)

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―三部作の完結編とされている今回の作品集「上下巻」について。写真集で上下巻というのは珍しいと思うのですが(そういうとこも小説ぽいですね)どういう思いで作られた作品集なのでしょうか?

N:正直なところ初めに言ってしまうと、これからも、続けていきますよ笑。やることは何も変わりません。正確には生きるように緩やかに変わってゆくとは思いますが。僕が妻を撮る、撮り続ける行為を、80歳を過ぎても続けていたとしたら、どんな写真であれとても面白いと思うんです。それは、”愛だ”、と僕は初めて言うかもしれません。”愛を”撮っているようなことは今まで”ほとんど”ありません。ただ、うつくしいこの世界を撮っている心地でいるだけです。多分”愛で”撮っているんです。

小説のよう、と言ってもらえるのはすごく嬉しくて、まさしく僕は、写真集、展示も含め、写真をカタチにする時は、小説のように物語を編んでいくような心地で取り組んでいます。“上下巻”という「タイトル」、「形式」にしたのは、子供じみたイタズラ心みたいなものですが、上と下でやりたいこと、やったことが違うんです。

これまで(上巻まで)の世界はなんとなく、二人の関係や、二人と世界との関係、また、二人の見ている世界が感じられていたと思うんです(もちろんそれだけではないのですが)。ただ、下巻はそこからすこし広げると言うか、或いは、遡る、潜り込むような行為に目を向けました。例えば、二人のそれぞれの生まれ育った場所、海、生死、日頃見ているのに視ることができていないもの(忘れてしまっている幼少の視覚的記憶)。それらは、決して物語の筋書きにはなり得ないかもしれないですが、その一枚一枚が孕んでいる強度、つまり、そのイメージがこれまでに培ってきた集合的、歴史的な機能は、それぞれで十分に物語を生み出せるんじゃないかと考えたんです。例えば、灯油の香りを嗅ぐとストーブや、冬の中の暖かさを思い起こしたり、雨の日の夜にトタンに当たる雨音を聞いて何かメランコリックな気持ちに浸ってしまったり。そういうふうに、見る側が自身の記憶、歴史を頼りに勝手に物語を導いていくような構成にしたのが今回の最終章の最終巻、下巻なんです。と言っても、ひとは物事を見るとき、いつもそれぞれの記憶を頼りにしているんでしょうけどね。

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―おふたりへお伺いします。影響を受けたものやことをお聞かせください。

K:高校時代、憧れの女の子がいて、その子から映画や音楽や小説に対する興味を植え付けてもらったような気がします。今考えてみれば、映画や音楽というよりも、とにかく彼女に夢中だったのだと思う。結果的に文化に触れていたというか。わたしは当時三浦半島の先端、三崎に住んでいたのですが、徒歩とバスを含めると往復二時間以上かけて渋谷のタワレコやシネマライズに通っていました。あの頃一番好きだった映画は『ベルベット・ゴールドマイン』で、すきな作家は吉本ばななさんと村上春樹さんでした。あと宮沢賢治は、父が岩手県花巻出身だったので敬愛していて、賢治さんの言葉の、ちょっと古いようでいて外国の香りがするあたらしい感覚がとっても気になっていました。少しこわいとも思っていた。他には、日本の作家では水村美苗さん。日本語と英語のあいだで文章を書くこと、というよりも文章を書くという根源的な営みについて考える上で、彼女の作品には影響を受けています。母語、というものについてもっと考えたいと思ったのも水村さんの本がきっかけでした。英語圏の作家では、ジャネット・ウィンターソンが一等好きです。物語ること、思い出すこと、人を愛すること、つまりは生きること、のすべてが彼女の作品には言葉として表されていると思う。言葉の使い方もとにかくすごくて、「この一行があるから、この作品はわたしにとって完璧なもの!」と言えるくらい、しびれます。

N:僕は、部活動に全青春をかけたような10代でした。カヌー部っていう、またコアな競技なのですが、監督は女性で、全然鬼監督じゃないのに生徒は頑張っちゃう。そのとき教わったのが、「ひとはあたまで考えていることのほんの僅かしか体現できない。だから、めちゃくちゃ想像しろ、あたまの中でできるだけ大きなことを考え実現させろ」ということでした。10代の終わりに出会った、オノ・ヨーコの「グレープフルーツジュース」と星野道夫の「旅をする木」には大きな影響を受けました。いまでも、想いを馳せることの重要さを思い出させてくれます。それから、単純に大好きなのがドイツ人写真家のヴォルフガング・ティルマンスです。だからつい撮っちゃうんです笑。彼の写真集そのものとかを。ティルマンスは「最近の若い人が僕のまねみたいなことをしているけど、(ここからは意訳)全然わかっちゃいねぇ!単なるパクリに過ぎん!」と言っているのですが、僕はそれで全然かまわないと思っています。「藍は藍より出でて、藍よりも青し」です。そのようなものを受け継ぎ、また次の一歩を踏み出していくものです。それに、やはり西洋の人はどうしても西洋的です。そういった意味では、彼と僕が撮っているものはちょっと違うかもしれません。否定されてしまうかもしれませんが、ティルマンスがやろうとしていることを、もっと天然的に、東洋的にやっているのが、天才・荒木経惟さんだと思います。両者は同じことを言っているように思います。当然、荒木さんのことも大好きです。

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―では、今、興味のあること、これから取り組んでみたいことについてお聞かせください。

K:やはり、ここしばらく一番興味があるのは宇宙と物理学です。「(unintended.) L I A R S」 の最新号のテーマにしちゃうくらい。なんだかすべて、この世界はいいな、と思えるきっかけになったんです。昔は科学や宇宙の話は漠然と遠く感じていたのですが、知れば知るうちに、わたしが心の隅で感じていた根源的な人間の在り方、世界の見方みたいなものに、物理学(特に量子論)がつながっている気がして、なあんだ、みんな同じ夢を見ているのか、となんだか拍子抜けしちゃったというか。わたし、実はある時点から、もう、幸福なことしか言えない、喜びにつながるものしかつくれない、というような気がしていて、それはもしかしたら、何かを表現する上では物足りなくなってしまうのかもしれないけれど、とにかくここが、この世界がやさしい場所だ、いい場所だ、と感じたいし、実際につよく感じているんです。昔はものすごおく、人に指摘されるくらいネガティヴで、それを誇り?のように思っていたこともあったくらいなのですが(笑)。くわしくはライアーズ巻末の「自問自答インタビュー」を読んでください(笑)。とにかく、この場所はいいところだよ、というのをいろいろな形で知りたいし、感じていきたいし、自分からも発信して行きたいなあと。喜びと安心、というのがテーマです。不安や恐怖や敵対なんかの正反対のものを、大切にしていきたいです。

N:ちょっと一言で言い切るのはとても難しいのですが、全体を見る視野みたいなものかも知れません。葉を見るともなく樹を見る、樹を見るともなく森をみる、ていうのは良く耳にすると思います。それも重要なのですが、あえて言えば、葉もしっかり見るし、樹もしっかり見る、もちろん森もしっかり見る、さらに言えば、何故樹から葉が生えてきたのか、或いは、土のしたの樹の表情はどのようなのか。正確でなくていいから見えないところもどんどん見ていく。要はイマジネイションです。そのイマジネイションができる範囲内では、この世界では十分に起こる可能性を秘めています。だから、まずは局所的でもいいから思いを馳せてみる。それぞれの物語を感じてみる。そういう力がとても重要になってくるように思います。星野道夫さんがよく言っていました。今、この瞬間にもどこかの大海原では、大きな鯨が宙を舞っているかもしれない、僕たちがつい固執してしまう社会とは、違う流れ方をしている時間、悠久の時間が確かにあるということを。そういう積み重ねたものが自然と、作るものや立ち居振る舞いに現れて来るものなのかもしれませんね。

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イベント情報

2016年2月17日(水)~2月29日(月)
成重松樹+きくちゆみこ展『わたしがぜんぶ思い出してあげる/あなたがぜんぶ思い出してくれる』
会場:ON READING 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
問:052-789-0855
www.onreading.jp

成重松樹
目黒の不動前にて小さな美容室koko mänty (kissa)を営み、写真の制作を続けている。
http://mtk-ooma.tumblr.com/

きくちゆみこ
翻訳業をしつつ、言葉を使った作品制作・展示を行う。「嘘つきたちのための」文芸誌(unintended.) L I A R S 発行人。
http://www.yumikokikuchi.com/

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